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パウル・クレー展 [notes]

東京国立近代美術館で『パウル・クレー展』を観てきました。
クレーは特に好きな画家のひとりです。
作品も大好きですが、猫好きということや、絵を描くときは左利きで文字を書くときは右利きという自分との共通点を見つけて、より親近感を感じている画家です。

今回の展覧会では、制作過程によって作品をジャンル分けして展示しています。
作品が作られた過程がよくわかって面白い展示のしかたでした。
なかでも興味深かったのは、1度描いた作品を2つ、3つに切り離してそれぞれ別の作品にしてしまうということ。
切り離す前の作品の写真も並べて展示してあったので、どのように作品を切り分けたのかがよくわかります。
すでに完成度の高い作品に仕上がっているのに、それをハサミで切り分けようという潔さがすばらしいですね。

会場の出口ではあちこちから「面白かったー」という声が聞こえてきました。
もう一度観に行きたいと思う展覧会です。

↓440ページある分厚い図録を買いました。

クレー展1.jpg

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ヒア アフター [notes]

クリント・イーストウッド監督作品『ヒア アフター』を観ました。
それぞれ違う形で「死後の世界」(ヒア アフター)に囚われた3人が、それぞれの生に向き合って再生していく姿が淡々と描かれています。
こういう、抑制のきいた静かな映画、好きです。


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ジャコメッティ [notes]

アルベルト・ジャコメッティ(1901~1966)は中学や高校の美術の教科書に必ず載っている彫刻家なので、誰でも一度は作品を見たことがあると思います。
私も初めて彼の作品を見たのは中学の教科書。たしか『広場』という作品だったと思います。針金のような人物が数人、それぞれ思い思いの方向に向かって歩いている光景。なんとも言えない不思議なリアリティを感じた記憶があります。

ジャコメッティ.jpg


ジャコメッティは人物をデフォルメして描こうとしたわけではありません。
見たとおりに忠実に描こうとした点では、とても伝統的(古典的)な方法論で制作を続けた作家です。
その結果が針金のような人物像です。
絵画作品も多く残しています。ほとんどが人物の肖像画です。油彩画です。
描き込み過ぎて絵具が混ざり、人物の顔はほとんど真っ黒になってしまっています。
そして顔の周りには異様に凝縮された空間が出現しています。
これも、ジャコメッティが自分の眼に忠実に描くことを追究した結果です。

「自分がどこにいるのか、さっぱりわからない」
ジャコメッティが制作中にしばしば口にしていた言葉だそうです。
この言葉は彼の作品を理解するためのキーワードだと思います。
ジャコメッティの作品に惹かれる私たちは、彼と同じ孤独を抱えていることに気づかされるのです。
自分がどこにいるのか、さっぱりわからない…と。


ジャコメッティは、外出用と普段着用の2枚の上着しか持たず、パリの小さなアトリエで、まるで修行僧のような質素な生活を送っていました。サルトルらにその作品を高く評価され世界的に有名な作家になってからも、その生活を生涯変えることはなかったそうです。

完本 ジャコメッティ手帖 1

完本 ジャコメッティ手帖 1

  • 作者: 矢内原 伊作
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2010/03/11
  • メディア: 単行本



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フランシス・ベーコン [notes]

話題の映画「インセプション」を観ました。
もっとエンターテイメントに徹してほしかったというのが正直な感想です。
主人公と奥さんの葛藤なんかを見ていると、タルコフスキーの「惑星ソラリス」を思い出したりしましたが…。

映画の冒頭に小道具として使われていたフランシス・ベーコンの絵とルノー・トゥインゴだけが強く印象に残ってしまいました。

というわけで、映画を観て急にベーコンの絵が見たくなりました。帰宅して久しぶりにベーコンの画集を開くと…、なんともおぞましい作品群です。

フランシス・ベーコン(1909~1992)は生涯、人間を描き続けました。その人体は気味が悪いほど異化されています。部屋に飾るにはちょっと抵抗があるほどです。
ベーコンの作品を初めて見た体験はちょっとした衝撃でした。無機質な空間のなかに、奇怪な人体らしきものが置かれている。「沈黙の叫び」とでも言えばいいのでしょうか。そんなものを感じました。

『ベラスケスの「法王イノセント十世の肖像」にもとづく習作』はベーコンが映画「戦艦ポチョムキン」の1シーンからインスパイアされた作品であることは有名ですが、ベーコンを愛する映画監督も多いようです。
「バットマン」でやはり小道具としてベーコンの絵を使ったティム・バートンをはじめ、デイヴィット・リンチ、ベルナルト・ベルトルッチなどなど…。
ベーコンの異化された人体は映像作家たちの創造力を刺激するようですね。

日本ではベーコンの大きな回顧展はほとんど開かれたことがないような気がします。ぜひ一度まとまった数の作品を見てみたいものです。

フランシス・ベーコン (ニューベーシック)

フランシス・ベーコン (ニューベーシック)

  • 作者: ルイジ・フィカッチ
  • 出版社/メーカー: タッシェン
  • 発売日: 2007/04/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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いのくまさん [notes]

「こどもの ころから えが すきだった いのくまさん おもしろい えを いっぱい かいた」(谷川俊太郎著『いのくまさん』より)

詩人・谷川俊太郎氏の言葉はこの画家の作品の魅力を実に的確にとらえていると思います。
猪熊弦一郎(1902-1993)の回顧展東京オペラシティアートギャラリーで7月4日まで開催中です。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館所蔵の作品約100点が展示されているとのこと。

以前から気になっていた画家ですが、その仕事をきちんと見たことがありません。今回はこの画家の仕事の全体像を見る良い機会です。最近は都心に出かけるのが面倒で予定を先延ばしにしてしまい観たかった展覧会をたくさん見逃しています。今回は何とか都合をつけて観に行こうと思います。

いのくまさん

いのくまさん

  • 作者: 谷川 俊太郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 大型本



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IKB [notes]

青は、静かな色。
青は、遠い色。

私の好きな色です。

そして、青と言えばイヴ・クライン(1928~1962)の「インターナショナル・クライン・ブルー(IKB)」。

青が好きという管理人さんによるユニークなホームページを見つけました。
↓こちらでイヴ・クラインについて詳しく紹介されています。
http://www.icnet.ne.jp/~take/yvesklein.html

Yves Klein

Yves Klein

  • 作者: Hannah Weitemeier
  • 出版社/メーカー: Taschen Deutschland Gmbh+
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: ペーパーバック



Yves Klein: With the Void, Full Powers

Yves Klein: With the Void, Full Powers

  • 作者: Kerry Brougher
  • 出版社/メーカー: Hirshhorn Museum & Sculpture Garden
  • 発売日: 2010/05/31
  • メディア: ハードカバー



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ジャン・デュビュッフェのこと [notes]

ジャン・デュビュッフェという画家は私が最も好きな画家の一人です。

初めて美術館でデュビュッフェの絵を観た時は、「こんな下手くそな絵、美術館に展示していいの?」と思うくらいの衝撃でした。その絵は油絵具を分厚く塗りたくってナイフか釘のようなもので人間らしきものを描いていて、とても大人が描いた絵とは思えませんでした。ピカソにもいわゆる「ヘタウマ」風の絵がありますが、デュビュッフェの絵は半端ではありません。

ジャン・デュビュッフェ(1901~1985)というフランス人の画家は40歳を過ぎて画家になる決意をした人です。
初めての個展では、厚塗りの油絵具に砂やガラスを混ぜて固め、表面に引っかき傷をつけたまるで子供が落書きしたような作品群を発表しました。この個展はスキャンダルになり、「クソ」などというひどい言葉でこきおろす批評家も少なくなかったようです。

デュビュッフェは、『アール・ブリュット(生の芸術)』という言葉を用い、原始芸術や未開芸術、精神障害者などの作品を高く評価した人です。そして、西洋主義・文明主義のアカデミックな美術教育のあり方を批判しました。
岡本太郎の「絵はきれいであってはならない」という主張とは少しニュアンスが違っていて、デュビュッフェの方が論理的で説得力があると思います(講演会の記録がありますので機会があればこのブログで紹介したいと思います)。

デュビュッフェの作品はこちらのニューヨーク近代美術館(MOMA)のページでご覧下さい。

http://www.moma.org/collection/browse_results.php?criteria=O:AD:E:1633&page_number=1&template_id=6&sort_order=1


Jean Dubuffet: Ein Leben Im Laufschritt

Jean Dubuffet: Ein Leben Im Laufschritt

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Hirmer Verlag
  • 発売日: 2009/06
  • メディア: ハードカバー



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伊藤若冲 [notes]

NHK日曜美術館で「伊藤若冲(いとうじゃくちゅう) 傑作10選」というのを観ました。
若冲、好きですね~。いつ見ても新鮮な発見があります。

若冲はセザンヌ同様、働かなくても(収入がなくても)画業に専念できるという恵まれた環境にいました。羨ましい限りです。
その羨ましい環境も影響しているのかもしれませんが、若冲は既成の概念にとらわれない奇想天外な絵をたくさん描いています。

若冲.jpg


上の絵は、一羽一羽たいへん写実的に描写された「群鶏図」。
この絵も写実主義の観点から見ると矛盾があります。
画面上方の鶏は遠い位置にいるはずですから、いちばん手前の鶏よりも小さく見えなければなりません。
しかし絵の中のすべての鶏はほぼ同じ大きさ。
番組の中では、望遠レンズで遠くから対象物を見ると手前の物も遠くの物もほぼ同じ大きさに見える「圧縮効果」というものが生じる、と解説していました。
若冲はそこまで意図して描いてたのでしょうか。
自分の心に忠実に、描きたいものを描きたいように描いた結果、こういう不思議な効果を持った絵になったと私は考えています。

描きたいものを描きたいように(自由に)描く。
簡単そうですが、実はもっとも難しいことです。
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「絵は命の手触り」 マーク・ロスコ [notes]

今日のNHK日曜美術館で作家・高村薫さんの好きな画家としてマーク・ロスコの特集をしていました。
ロスコは戦後のニューヨークでジャクスン・ポロックやバーネット・ニューマンらと並び抽象表現主義の画家として活躍しました。
大きな画面に矩形の色面が配されているだけのシンプルな構図。一つの絵で使われている色数は少なく、とても静かな絵です。この静かな画面が不思議な魅力を醸し出しています。
高村さんは「絵は命の手触り」と言っていました。ロスコの絵の魅力をとてもよく表現していると思います。小説でも音楽でも優れた芸術作品って頭の中で理解するのではなくて体で感じる何かがあるんですね。
川村記念美術館の「ロスコ・ルーム」、一度行ってみたいです。

MARK ROTHKO

MARK ROTHKO

  • 作者: 川村記念美術館
  • 出版社/メーカー: 淡交社
  • 発売日: 2009/03
  • メディア: 大型本



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自画像の画家-エゴン・シーレ [notes]

シーレ.jpg

『死と乙女』つながりでエゴン・シーレのことを少し書きます。


1980年代初めにちょっとした「エゴン・シーレ」ブームがありました。伝記映画もそのころ公開されました。
シーレは作品も衝撃的ですが、その短い生涯もかなり波乱に満ちていますので興味のある方は伝記映画を観てください。

エゴン・シーレは数多くの自画像を残しています。

「自画像の画家」と言えば、真っ先にレンブラントとゴッホが思い浮かびますが、彼らと比較するとシーレの自画像はかなり異質なものに感じます。

レンブラントの自画像は歳を重ね老いていく自己を冷徹な視線で見つめています。この自己に対する徹底した冷徹さが、彼の自画像に凄味を与えています。
情熱の画家・ゴッホでさえ、その自画像は自己を突き放した冷静な視線で描かれています。それゆえにゴッホ自身から発する燃えるような情熱を表現することに成功していると思います。

では、シーレの自画像はどうでしょう。
ナルシズムの匂いがぷんぷんします。
こちらを見る目はどれも虚ろ。そしてポーズも作為的。
その多くが全身像(しかも裸)で、まるで写楽が描いた役者絵のようなポーズをとっている。
自慰をする自画像なんてのもあります。

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